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「観光立国宣言シリーズ」

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ふるさとの文化や歴史の深みを知る


東日本旅客鉄道(株)社長 松田 昌士 

新幹線誕生から30余年。平成6年から好評の新幹線MAX、また成田エクスプレス、ミニ新幹線つばさなど、JR東日本の鉄道事業への取り組み方が注目される。そのトップに日本の観光ビジョンを聞く。(平成7年2月対談)

まつだ まさたけ
昭和36年、日本国有鉄道入社後、北海道総局総合企画課長、東日本旅客鉄道(株)常務等を経て現在に至る。

二階 新春ですから明るい話から入らせて頂きたいと思っておりましたが、阪神淡路の大震災で多くの方々が犠牲となられ、JRや私鉄各社も甚大な被害を受けられました。
初めに謹んで今回の大震災で亡くなられた方々にお悔やみを申し上げますとともに、被災者の皆様に対し心からお見舞いと深くご同情を申し上げます。

松田 未曽有の大災害で亡くなられた五〇〇〇人を超える方々の御霊に改めて弔慰を捧げたいと思います。
JR西日本や各私鉄の皆さんをはじめ、交通関係に携わっている人々がいま不眠不休で一日も早い復旧に努力を頂いております。
私たちも専門的な技術協力をさせて頂いておりますが、新幹線の復旧は復興のシンボルと考え、業界挙げて協力させて頂いております。

二階 ところで観光産業は経済波及効果二四兆五〇〇〇億円という数字が定着してきましたが、日本では一五人に一人、世界では一〇人に一人の割合で観光産業に従事して、二十一世紀には最大の産業に位置づけられようとしています。
本企画は、その観光産業を支えている日本の「主役」の方々に次々に登場して頂いて、今後の観光産業の展望等について大いに語って頂くものです。
そのトツプバッターとして、今日はJR東日本の松田社長に登場願うことになりました。

松田 二階会長が「明日の内閣」で国土・交通政策をご担当頂くということは観光産業のために大いに期待しています。

二階 ありがとうございます。松田社長の生まれた北海道の開発も担当することになりましたので、私の方こそご意見を期待しています。
早速、本題に入らせて頂きます。

今、観光に必要なのはコストダウン
各省庁の連携も大切

松田 今いちばん観光のために我々がやらなければいけないことは、大きく分ければ四つだと思っているのです。第一は、国内観光に空洞化が起こっている。これは構造的な変化ですから、単にドル安とか不況だとか、そういう事柄と違って、観光というものの構造が大きく変わっている。それを解決するのは大変難しい問題です。あまり時間がない、現在大変な事態になりつつありますよ、ということの認識をまずきちっとすることが前提だと思うのです。
もう一つは、いま1300万人近い方が海外に行っています。しかし海外から来られる方というのはきわめて少ないですね。ですから国内の人たちの観光と同時に、インバウンド、外国の方が日本の文化に接する、自然に接することも強く意識したうえで、国内観光を再構築するということが必要だということですね。
そういう認識のもとで何をやるかといえば、一つはビジネスレンタか、リゾート、われわれの鉄道の運賃などというものを総合的にもっと質を高めつつ、廉価にしていくことをやらなきゃいけない。その底にはいろいろな形のコストダウンが必要ですね。例えば旅館なんかでも、素泊まりがいくらで、どういうものを食べたら値段はいくらになるのかということを明確にしなきゃいけないし、共同仕入れとか共同でつくるとか、いろいろな工夫も必要なんですね。いま、東北のほうで八十何軒が共同でコストダウンをやろうということで、シーツやお花、主要な食品などの共同仕入れをやって、場合によっては外国でつくって頂き、2割ぐらい下げようという運動が起こっています。ホテルなどでも一部で始めていますけれども、例えば1泊目は1万5000円だが2日泊まったら1万円、3日泊まったら8000円ということでやっていくようなシステムも必要なんですね。

二階 長期滞在の方の宿泊料ですね。面白い発想ですね。日本人を一つの観光地に惹きつけておくために、それは大事なことですね。欧米先進国と達って日本にはもともと長期滞在の習慣がほとんどないですからね。

松田 はい。ですから、それには単にスポット的に泊まって、ビジネスをこなすというだけじゃなくて、少し豊かな生活ということですね。日本でいえば、特にいま家庭問題やお子さんの問題なんかがたいへんですね。三十代、四十代、五十代は非常に教育等にお金がかかって、家族ぐるみで自然に親しむゆとりもない。そういう方々に、三日でも四日でもいいから長期滞在型にして、家族全部で泊まって二万円ぐらいですむというような費用構造を前提に、実現に向かって進めていくということが必要だと思うんです。そこで、わが社も今春から廉価なレンタカをやって、一泊して、周辺を観てもらうというやり方をしようと思っています。

二階 この前、運輸省の荒井観光部長(当時)と松田社長との対談を新聞で拝見しまして、レンタカーをたいへん安くやって頂くというのは、これからは自動車時代ですから、若い人たちや夫婦で旅行する人たちには大いに喜ばれるのではないかと思っておりました。

松田 そうなんです。それから、3つ目はいま各省庁でいろいろなことをおやりになっている。観光省をつくるかどうか別にしても―――私はつくってほしいと思いますけれど―――私は本当少なくとも観光に携わる行政の方々が連絡会でもつくられて、緊密な連携をもって役割分担をする。
例えば私どもの会社も、国内標準に基づいて標識がたくさんあるんですね。例えば「これは階段です」とか、「ここは車椅子の方はいいです」とか、「ここは禁煙です」とか。それを国際表示にして、日本語がわからなくても外国の方が楽に観光に行けると。

二階 絵で見て、万国共通で旅に必要なことがわかるということですね。

松田 そうです。国際化というのであればそれは全国統一して、そういう国際表示をする。鉄道も道路も航空もみんな、そういうふうに使うというのは、これは行政でないとできないんですね。

二階 今までは観光といえば、運輸省のなかの一つの局が仕切っていくという形になっていますが、これを、今の政府でいうと、観光問題関係閣僚懇談会というふうなものがあって、各省庁がみんなで協力し合うことが大切ですね。このごろは農林水産省でも立派なことをやってくれていますね。グリーンツーリズムとかいう…。「明日の内閣」でも早速考えてみましょうか。

松田 ぜひともお願いしますよ。農林水産省もずいぶんいろいろな設備をつくっておられますね。

二階 それから郵政省が簡保で施設をつくって、地域の旅館が圧迫されるなんて苦情が出るほど客が入っていますね。厚生省は厚生省で国民休暇村等をやっている。そんなことで、いま各省庁がみんな、「観光」を考えて頂けるようになってきたわけです。
そこで、いま松田社長おっしゃる連絡調整をして、無駄なことはやめて協力し合うということですね。ご承知のように、観光に対する経済効果等を調査して頂くと、二四兆五〇〇〇億円という数字が出ているわけです。この数字を基礎に、いま世界でだいたい一〇人に一人は観光業に従事していると。こういう実態から言いましても、観光省をつくるとか観光大臣をつくるとかということは別にしましても、これからの検討課題として、おっしゃるように、観光関係の方がみんな集まってそういうご協議を頂くというのはたいへんいいことですね。

松田 特にいまの行政のお力を借りないとなかなかできないという面で、いま一つは国内の観光とか旅とかいうものにもっと深みを与えないと、ヨーロッパやほかの国に行った人が受けてくるだけの感銘というものがないと思うんですね。それにはどうしても土地柄とか、そこに詳しいガイドが必要ですね。

二階 そうですね。歴史、文化、芸術、スポーツあらゆることにね。したがって文部省などでも、ずいぶん力を入れて頂かなきゃいけないと思うんです。

土地の歴史や文化を知るほど
観光客はその土地の魅力を感じる

二階 この前関経連の川上会長(当時)とお話する機会がありましたが、いま「歴史街道」の推進に関経連が中心になって、ずいぶん熱心に取り組んで頂いているんです。これはもとはドイツのロマンチック街道にヒントを得ているんですが、いま松田社長のお話のように、小学校、中学校、高等学校等に歴史の先生とか、その地域のことをずいぶん個人的にも勉強なさっている方がたくさんおられるわけで、そういう人たちが語り継いでいくふるさとの歴史などが、どれほど観光客を楽しませるか、感銘を与えるかということです。そうすると、次には、観光客自身が歴史書とか美術の書物とかをひもといて、もう一回出かけていこうという気持ちにもなりますから。

松田 やはり戦後五〇年、日本は歴史というものを非常におろそかにして来ましたね。民族の歴史なんかにきちっと意見を述べるべきで、教えるのにも非常におずおずとした態度でやっている。ですから、本当に歴史教育が行なわれたかというと、事実を並べるだけであって、今の我々の生活と我々の社会をつくっている先祖代々の文化と歴史というものが伝わっていないんですね。だから単に中央だけではなくて地方の県とか市なんかも、おっしゃるように高等学校の先生とかボランティアとか、たくさんいますから、それぞれのふるさとの歴史や文化に深みを与えるということをやらなきゃいけない。今かすかにやってくれているのは観光ガイドだけでしょう。

二階 そうなんですね。

松田 ですから、観光事業に何年従事したとか、どこの協会で何年働いたという人に勲章を差し上げることも、たいへんけっこうなことですが、併せてガイドさんなんかで立派な活躍をしてくださる人たちや歴史の先生方にも、勲章を差し上げるぐらいの気持ちで対応していく。また、場合によっては、そういう方々に海外に勉強に出かけて頂く、そういうチャンスを与えていくということもできるわけですから。
私どもなんかも、例えば先年フィレンツェに行って向こうのガイドさんに説明してもらうと、まさにイタリアの歴史、フィレンツェの歴史、そして、いま目の前にあるものがどういうつながりを持っているかというところまで教えてくれるわけですね。非常に親しみを感じますね。と同時に理解を深めることができる。日本の場合は、例えばヨーロッパの方とか、アメリカの方、東南アジアの方がきて、このお寺というのは何年前にできたということは言いますけど、いまの地域にどんな影響を与えているか、あるいは日本の文化にどんな影響を与えているか、それが今どういう生き方をしているのかと問われても、答えられる人というのはまだ少ないと思うんですよ。

二階 そうですね。標識もそうですが、このごろビデオもあるわけですから、最低英語とフランス語ぐらいは、希望があれば説明できるようなシステムを設置していくとかということもたいへん大事なことですね。

松田 だから、国とか県の予算を、ちょっぴり割いて、モノよりも、そういう観光の基礎づくりのところに持っていくということですね。

二階 観光そのものが遊びとか、必要性からいうと、なんだかたいへん順番や地位の低い産業のような受け止め方をされておりましたから。行政の側でも、そういうことに対して予算をつけたり、力点を置くということにやや迫力が欠けていたような感じもするんですね。

松田 そうですね。やっぱり私どもの世代というのは馬車馬のごとく走らされて、余裕がなかったんですね。

二階 働くことが美徳で、遊びや観光に出かけるというと、まわりの人にいうのもちょっと憚るような気持ちだったんですね。特に今の中年以上の人は・・・。

松田 ちょっと観光にいくから有給休暇をとりたいなんていったら、たちまち「何を言っているか」というような感じの時代ですからね。

二階 怠け者のように思われやしないかと、そういう気持ちが戦中・戦後の世代にはあるんですね。いまの若い人たちは当然のごとくに海外に出かけるし、ホテルの予約も何もとらないで気楽にパッと行っちゃうような、そういう時代にもうなってきたんですね。

ぜひとも実現させたい
観光大学、観光図書館

松田 本当にみなさん、お買物でも海外で買われても、ドル安で安くなっていますけど、昔何十年か前に象徴的に言われたように、例えば農協さんという旗を立てて何十人かで回ったという時代は過ぎちゃったでしょう。やっぱり好みに合わせて絵をみたいとか、音楽会にいきたいとか、美術館をみたいとか、そういう豊かな、いろいろな感性を磨くために海外に行っていますから。
あれだけ外国に日本人が行かれるということは非常にいいことなんだけど、日本でも感性に合わせたものを提供できるというふうに観光関係者は考えなきゃいけないことですね。

二階 私もこの前、二度目の運輸政務次官の頃に、東部カナダ、ちょうど『赤毛のアン』という小説の舞台となったプリンスエドワードアイランドに行きました。すると、そこには日本の女学生が二人連れ、三人連れで幾組も来ているんですね。そういうものを日本でもどんどんつくっていかなきゃいけないと思うんです。歴史や文化や自然、その地域の特性を生かしたものを創造することが重要ですね。
そういう意味で観光振興にすぐ明日役に立つというわけじゃありませんが、観光関係事業に従事する方々の資質を高めていくということ、観光に対して国民のみなさんの関心を寄せていくために、観光に関する文献などを一か所に集め、学生も含めて、観光を勉強したいと思ったら、そこに行ったら勉強できる「観光図書館」のようなものをつくることができたら、と思います。私はさらに「観光大学」の設置を機会あるごとに提唱しているんですが、松田社長さんもそういうことにたいへんご関心を持っておられるということを伺って期待しているんですが。

松田 ええ、われわれはできるかぎり、そういうことにはご協力しますし、政治家の方で、議員連盟とかいろいろなことをお引き受けになっている方も多いと思いますが、海外とか国内の観光という観点から政治、社会、経済、文化というものの各々の役割を重視して、それを進めようと考えて頂くことも重要だと思います。そういう意味で二階先生のように非常に多くの国々とそういう観点でお付き合いされたり、それから「日本の観光を考える百人委員会」をおつくりになったりという形で刺激を与え、システムをつくりあげていくというのが、いま非常に大切だと思いますね。

二階 観光というのは面白いもので、舞台がたいへん広いものですから、だれでもが観光について一家言を持っておられるんです。そのことを実行するかしないかです。国民の皆さんがゆとり、余暇活動を推進して生き甲斐や健康を求めるとともに、幅広い観光産業に従事する皆さんが、それを進めていくと素晴らしいものになる、二十一世紀には最大の産業になるだろうといわれております。これは可能性があると思いますね。

松田 私もあると思いますね。
 それと、最後にもう一つだけ、そういう意味からいっても、みんなで身のまわりを含めて日本を少し清潔にきれいにしましょうよ。今、グアム、サイパンに大勢の方が行かれるというのも、お値段が安いというだけじゃないですね。考えてみたら、日本で安心して昔のようにすぐに泳げるという海水浴場がなくなっているんですよ。東京周辺でも、みなさんは海に出ないで、プールで泳いでいる。それよりは自然の豊かなところで甲羅干しでもしようと、グアム、サイパンに行っちゃうわけですね。
 日本は開発もいいんですけど、みんなで少し国をきれいにして、豊かな自然をいきいきと・・・。

二階 日本のなかにグアム、サイパンをつくっていかなきゃいけないですね。今度、小笠原にいよいよ空港ができますが、島民の皆さんが便利になることが一番大事ですが、このことによって日本の観光のエリアが大きく広がります。

松田 日本の中に新しいグアムやサイパンができることになりますね。

二階 なぜ、「国鉄」なら赤字を出して、「JR」なら黒字になるか、この素朴な疑問を国民みんなが持っている。逆にいうと、JRに対する賞賛、期待の気持ちがまた寄せられているわけですけれども、私がなぜそうなったかと社長に伺ったら、「最初トイレをきれいにすることにかを入れた」ということをおっしゃって頂いたのをたいへん感銘深く覚えているんです。
やっぱり観光のスタートは、国をきれいにすること、それは心も含めて、きれいにするということ、これが観光としても大事な視点ですね。

松田 スイスとか、さっきの話のロマンチック街道とかは、何百年もの歴史を持つ古い財産と文化が、非常に清潔に利用しやすく保たれていますね。われわれも心してつくりあげていくということを考えなきゃいかんですね。

地方を活性化させるのは
鉄道の大きな役目

二階 それから、東北にミニ新幹線が開通して、相当大きな反響を呼んでいますね。同時にまた新幹線が開通して三〇年余ですが、たいへん記念すべきことで、鉄道が再び見直されて新しい鉄道の時代がやってきたような感じがするんです。列車をきれいにして、新型車両で、そしてスピードが出るということになりますと、国民はみんな、列車に対する子供の頃からの憧れのようなものは根に持っていますから、JRの今後の発展ということもたいへん期待できるんですが。

松田 ありがとうございます。非常にありがたいことは、日本人は基本的に列車が好きですね。

二階 子供のときの絵本は、動物か列車の絵であったように思うんですね。

松田 後藤新平さんが一〇〇年前に、いまの狭軌じゃなくて標準軌にしようということをお考えになって、当時は実現できなかったんですけれども、いま新幹線から始まって山形のような在来線を広げていき、これから何十年かかるかわかりませんけれども、われわれとしてもそういう形で地方を活性化させるという非常に大きな役割を持っていると思うんですね。
いま山形をやり、これから長野をやり、田沢湖線で秋田に延ばしますが、また、他にも、いろいろな話が出てきますが、採算性がありますから、どんな資金を使うかは別にして、その夢だけはわれわれの夢と共通なんですね。おそらくこの何十年か後には標準軌の新幹線と一緒になって行き来できる線路が、JRの線路だけであるという時代がくるんじゃないかと私は思っているんです。それを目指して、すこしずつでもやれるところからやっていこうと。先生も南紀のほうにそういう構想を打ち出されて、一所懸命おやりになっていると伺っています。

二階 お蔭さまでJR西日本のご協力も頂いて、いま順調に運輸経済研究センターで松本先生(東京理科大学教授)のもとで調査して頂いておりますが、これは二十一世紀にかける紀伊半島の大きな夢ですからね。

松田 鉄道に携わる一人として紀伊半島の夢の実現を期待しています。

二階 最後になりましたが、この度の阪神大震災では甚大な被害が出ており、私も新進党の現地対策本部長として先頭に立って復旧・復興に向け努力しているところですが、観光業界も大きな痛手を被っています。緊急の対策として、震災の影響を受けた企業に対する災害復旧貸付制度の無担保低利融資の拡大及び被害を受けた文化財、観光資源の復旧支援を図るとともに、震災の影響は他府県にも及んでいることから、間接的に経済的影響を受けた企業に対して貸付制度の無担保低利融資の拡大も併せて図るよう努力しています。

松田 私たちも日本の観光業界への影響をできるだけ少なくするため、さらに一日も早い復興を目指して精一杯頑張りたいと思います。

二階 ぜひご協力をお願いします。本日はお忙しいところをありがとうございました。

 

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