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 平成十年十一月十九日、小渕恵三首相と自由党の小沢一郎党首が歴史的な会談を行ない、自自連立が合意した。しかし、政策協議はなかなか合意に至らず、連立解消という声もささやかれはじめた。
 自由党の二階俊博国対委員長は思った。
〈両党が言いたいことを言っていれば、壊れるに決まっている。その可能性もないことはない。自民党内には、心から連立政権の成立を願う人と、そうでない人がいる。「何が実行されるかという担保、確約もないうちになぜ急いでいっしょになるのか」「小さな政党の自由党のいいなりになり、小沢の恫喝によって自民党は何もかも譲ってしまうのか」と言われれば、両党ともに、さようでございますと言える政治家はいない〉
 マスコミは連日報道した。
「自由党はハードルを高くしている。閣僚ポストや副総理ポストを要求している」
 二階はさすがに腹にすえかねた。
〈われわれはそんなことを言っているわけではない。自由党は閣僚数の削減を要求している。その自由党が閣僚ポストを三つも四つも要求するなど、バランスからいってもできるわけがない。われわれは、自分たちの主張さえ通してもらえば閣僚はゼロでも結構だと言っている。これは、駆け引きでもなんでもない〉
 二階は自民党のある議員から言われた。
「ハードルを低くしてくれ」
 二階は憮然として言った。
「ハードルって、いったいどのハードルを低くするんだ」
「そんなことは私にはわからない。だが、ハードルを低くしてもらえなければ一緒にやっていけないとか、連立政権が進まないと自民党内の中で言われている」
 二階は思った。
〈これは、とんでもない方向に議論がいっているんだな〉
 十二月下旬、小沢党首は小渕首相から第三回目の党首会談を要請された。
 当初、小沢党首は党首会談を受けるつもりであった。が、連日、自由党がポストを要求してごねている、という報道が流されている。党内にも、「これなら連立政権は断念せざるをえないのではないか」という声がにわかに起ってきた。
 小沢党首も、人事の話なら党首会談に応じられない、と二十八日に予定されていた会談の延期を申し入れた。
 二階は思った。
〈党首会談で、どこが問題になっているのか、ということをはっきりすべきだ〉
 十二月二十九日、二階は小沢党首に進言した。
「われわれの主張だけを繰り返しているだけでは、国民の皆さんにとってもわかりにくい。政策の合意がなければその先は進まない、ということを改めて国民の皆さんにも理解をしていただく必要がある。そのために、党首会談はあってもいいんではないですか」
「今日おれが行くと、連立が壊れるかもしれない」
「われわれは党首と一体となって進んでいます。かつて、金丸さんが田中(角栄)先生のことを称して、『親方が右向けといったら右だ。左向けといったら左だ』と言われた。中曾根内閣をつくるために田中派をまとめるとき、親方がそう言う以上そうだと言った、あの通りじゃないですか。ぶっこわれても結構ですよ」
「そこまでみんながそういうふうに思ってくれるなら、今日、人事は除いて政策中心の会談にならば応じる」
「わかりました」
 二階は、直ちに古賀国対委員長を通じて官邸側に申し入れた。
「人事の話を抜きにして、政策中心の党首会談をお願いしたい」
 官邸側も了承した。
「よくわかりました。それで結構ですから、年内に政策を詰めるところは詰めておきたい」
 午後九時前、小沢党首は首相官邸に向かった。
 二階は小沢党首の後ろ姿を見送りながら思った。
〈場合によっては、この会談によって連立が壊れるかもしれない。われわれが提案している政策を曖昧に飲み、まるで子供をあやしているような調子で真剣に受け止めないということであれば、それもしょうがないのではないか。自自連立は、自由党の議員にとっても政治生命がかかっている。各議員がこれまで選挙区で行動してきたこと、世間に発表してきたことと自自連立のための政策課題が合致するのか。小沢党首は、「一人ひとりの国会議員の意向を確かめておきたい」と全員と話し合いを行なった。そして、われわれ全国会議員が小沢党首に一任することを決めた。
 自民党は、いい言葉でいえば幅が広くて奥行きもある。歴史も伝統もある。さらに論客もそろっている。それぞれ整備された派閥がある。こういう状況のなかで、議論が簡単に結論を得られないということは、わからないわけではない。しかし、この国難ともいえるような状況におかれているときに、政治家としてこの状態を打開していくために何をなすべきか、何をすればいいのか。そのことを考えて、われわれは、政策の似かよったグループが一致団結、一致協力して国難に立ち向かおうと決意したのだ〉
 党首会談は、余人をまじえず四〇分にわたって行なわれた。会談を終えた小沢党首は満足そうな表情をしていた。
 二階は思った。
〈感触が良かったんだな……〉
 平成十一年の年明け早々、政策ごとのプロジェクトチームをつくり、協議に入った。
 一月十三日朝八時、二階らは自民党の古賀国対委員長、参議院自民党の青木幹雄幹事長と協議をした。最終的に、自民党の池田政調会長、外務省の担当局長の加藤総合外交政策局長などを相手に小沢党首自らが鉛筆をもって一つひとつの交渉の詰めを行なった。
 そして、懸案だった日米ガイドライン関連法案で最終的に合意。
 二階は思った。
〈自由党内には、われわれがこれまでのしがらみや過去のことをすべて脱ぎ捨てて連立の道をいこうと決意したにもかかわらず、自民党の対応は温度差がありすぎではないか、という不満の声もあった。が、自民党執行部は、われわれのそうした指摘、あるいは不安に対して次第に理解を示し、この道以外にない、という判断をくだした〉
 自自連立の過程を振り返ると、政策協議でボタンの掛け違いになりかねないような心配事もあった。
 十一月十九日の合意文書には、自由党の提示した政策をすべて理解し、ともに実行するために共同の政権を担うと書いてある。が、驚くべきことに自民党のなかには、「合意文書は自由党の意見であって、このなかから必要と思われるものを順次議題にのせていけばいい」と解釈した人もいた。
 しかし、合意文書で、政策の方向性で一致し、これを具体化し、予算は責任をもって年度内に成立させるという約束を交わしている。議論の余地も、疑いをさしはさむ余地もない。
 自民党は自由党より七倍も大きな政党だ。いい面においても、そうでない面においても、決断、決定に多少時間がかかるのは仕方がない。それに、お互いにそれぞれ選挙を争ってきた仲だ。小渕・小沢会談で意見が一致したからといって、末端の兵隊にいたるまで右向け右で直ちに従うというのはむずかしい。この程度のタイムラグはやむをえなかったのではないか、と二階は思う。
 連立政権は、壊れることはたやすいガラス細工である。が、小沢党首は政策的に合意がなければ、あるいは政策的に約束したことが実行される見通しがなければ解消しようということで取り組み、合意を前進させた。
 ただし、小沢自由党だけの頑張りでそういうことになったということではない。自民党側もずいぶん理解を示した。あれだけの大きな政党であるがゆえ、色々なしがらみもある。そのなかで思い切った改革案にのってきたという勇気は、大いに評価されてしかるべきだと二階は思った。
一月十四日、自自連立政権が発足することになった。
 小沢党首は、小渕首相に求めた。
「自由党から、二人を入閣させてほしい」
 小沢党首は、野田毅幹事長と二階を入閣させようと考えていたのである。
 二階は小沢党首に言われていた。
「野田幹事長と、あなたに入閣してもらおうと思う」
 しかし、自自両党の政権協議により閣僚数が三つ減った。そのうえ自由党が二ポストを得るのは厳しい状況であった。
 二階は言った。
「私は国対委員長として、自自連立政権発足のために、頑張りすぎるほど頑張ってきました。しかし、敢えて閣僚入りは考えておりません。もっと早く、このことを申し上げようと思っておりましたが、入閣の要請もないのに、『私は入閣をお断りします』というのもおかしな話ですので何もいいませんでした。私の後援者も、今回ぜひ入閣をしてもらいたい、という人はひとりもおりません。私は、まず連立の象徴として小沢党首がお入りになることを望んでいます。それが叶わなければ野田幹事長がおやりになる。私のことは、ご放念下さい」
 小沢党首はいった。
「私は選挙応援などで、たびたび和歌山県に行っている。選挙区の人たちはなにも言わないというが、二階さんの入閣を今や遅しと待ち望んでいる気持ちを十分すぎるほど感じている。あなたには、今日まで党のためにご苦労をかけている。野田幹事長と二人で入閣してもらいたい。二名は無理だということであれば、今回は野田幹事長に入閣してもらう。次の機会に、あなたが入閣できるように努力しよう」
 結局、自由党に割り振られた閣僚ポストは一つとなり、野田幹事長が自治相として入閣した。
 二階は、自民党の古賀誠国対委員長や自民党筋の強い要望もあり、引き続き国対委員長に留任することになった。
 これまでは野党の国対委員長として、政局に持ち込もう、政権を奪い取ろうという側にいた。が、今度は与党の立場になり、予算案をはじめ重要法案を一日でも早く成立させるという側に立った。まったく仕事の内容が変わってしまった。
 二階は自分に言い聞かせた。
〈自自連立政権は、国民の理解を得るためにも一日も早く重要法案を成立させる。自自連立政権によって、政治にパワーとスピードを増した、ということを国民に感じてもらえるような国会運営、国会対策をやっていかねばならない〉

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