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はじめに

二階 俊博 (前運輸大臣)

交通バリアフリーとは、鉄道駅、道路等における段差の解消等移動経路上における物理的な障壁を除去し、高齢者、身体障害者、妊産婦の皆さんなどが安全かつ円滑に移動できるよう、公共交通機関、歩行環境などの施設・設備を整備すること。また、これらの方々の移動を困難にしている社会的、制度的、心理的な全ての障壁を除去するという意味であります。

アメリカでは、既に1990年から施行されている「障害を持つアメリカ人法」(ADA法)に遅れること10年でありますが、運輸省、建設省、自治省、警察庁と四省庁が足並みを揃えて、バリアフリー社会の実現を目指して第147国会に画期的な法案を提出しました。やがて国民の皆さんの理解と協力を得て、バリアフリー社会を構築してアメリカに、フランスに追いつき、追い越す日が来ることを固く信じています。

「高齢者・身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化に関する法律案」(交通バリアフリー法)は、平成12215日、国会に提出することになり、衆参両院の本会議や委員会において、延べ約30時間の慎重審議の末、510日参議院本会議において出席議員全員の賛成を得て、可決成立致しました。

早速、高齢者の皆さんや身体のご不自由な方々から沢山の喜びの声が運輸省にも寄せられました。

長年にわたって交通バリアフリー法の成立に向けて強く主張を続けて来られた八代英太郵政大臣(当時)は「長い間、私はバリアフリーを訴え続けて来ました。歴代の運輸大臣に対し交通バリアフリーを要請し続けて来ました。皆さんは話を良く聞いてくれましたが、実行されるには至りませんでした。今度、二階大臣は関係者の話もよく聞いてくれましたが、直ちに実行してくれました。しかも、アメリカに追いつき追い越すよう努力すると国会答弁でも、その努力目標を明らかにしてくれました。この法律は私たちに大きな希望を与えてくれました。」と賞讃とねぎらいの言葉が贈られました。

八代さんの言葉に代表されるように、
「この法律の成立は関係者にとって大きな喜びでありますが、私ども障害者にとっては命の支えであります。(村谷昌弘 日本盲人福祉委員会理事長)」と喜びの声があがる一方で、
「本当に待望した法案が通りました。これからは、バリアフリーを全国民的なものとして育てていかなければならない。バリアフリーを故郷の田舎でも実感できるようにしていかなければなりません。(松尾栄 日本身体障害者団体連合会会長)」
とこの法律を契機に、日々の暮らしの中で実感できるバリアフリー社会の構築に努力していこうという決意が各方面から寄せられました。

また、この法案の国会提出を契機としてバリアフリーを考える市民の集会も開かれました。身体に障害のある方々の身につまされる切実な苦労話や具体的な数々の提言の傍ら、「身体に制約のある方々の外出は健常者の半分以下といわれる。これを顕在化していくことは社会的な使命であり、そのための社会基盤整備を国際標準として、バリアフリーな社会を築いていかなければならない(光星昭宏 近畿大学教授)」
「体の不自由な方々にやさしく手をさしのべていく、心のバリアフリーも大切だ。バリアフリーには超党派で取り組んでいく(泉信也 現運輸総括政務次官)」
「これからはバリアフリーの設備があるかないかという量的な問題から、移動のしやすさ、わかりやすさ、使いやすさという質(クオリティ)の問題として取り組んでいくことが大切(赤瀬達三 黎デザイン総合計画研究所代表取締役)」
などの前向きの意見が寄せられました。そして、なによりも、このバリアフリー法案にかける関係者の期待の大きさをひしひしと実感いたしました。

八代さんのご紹介で、米国運輸省の予算担当審議官でバリアフリー問題の権威でもあるマイケル・ウィンター氏と意見を交換する機会を得ましたが、日本のバリアフリー法案は、「四省庁が協力し合うことと、国民の協力を義務づけていることが素晴らしい」と誉められました。ウィンター氏は奥さんが日本人で、養子さんも日本人で常に自分の家庭の過半数は日本人だとジョークを言われていましたが、両足切断で車椅子の生活をされておられながら、八代さんと海を越えて協力しながら世界にバリアフリーを明るく熱心に呼びかけて来られました。「八代郵政大臣とは20年の親友だ」と言われていますが、八代さんもまた20年にわたってバリアフリー実現のために良き理解者であるお嬢さんの応援を得ながら世界中にバリアフリーを呼びかける運動をねばり強く展開されていることを知るにつけて、私たちは何故今までこのようなことに気がつかなかったのだろうと、私自身も深く反省の念にかられながら国会答弁に臨んだものでありました。同時にこのような身体にハンディを背負っておられても、能力さえあれば、政府の重要なポストに抜擢して国際的にも活躍の場を与えているクリントン大統領やスレーター運輸長官も立派だなと改めて感じています。

アメリカ社会だからといってしまえば、それまでかもしれないが、私たち日本社会の政府や企業も大いに見習う必要があることを痛感しています。いよいよ交通バリアフリー法を実行する段階に入りました。2000年は、「交通バリアフリー元年」ともいえます。県や市町村、交通関係の事業者の皆さんから法案審議の過程やバリアフリーな社会の実現のために今後如何にして取り組むことが大事なのか、多くの質問が先の総選挙で各地を廻っている間にもあり、うれしい悲鳴でもありました。従って、これらの質問にお答えする意味をこめて本書をまとめることに致しました。同時に私は国会答弁でも自らも選挙中にも機会ある毎に、述べて参りましたことは今度の法律は、何と言っても、4省庁が協力して提案したことに大きな意義があります。これからも四省庁が力を合わせてバリアフリーな施設を築いて行くことが重要であります。

続いて、交通バリアフリー法は、まさに地方分権の幕開けを飾るにふさわしく地方自治体が主体となって、交通関係の事業者と協議し、出来上がった計画に基づき国が支援助成をするというトライアングルの、協力関係をしっかり固めることが必要であります。

それでは、以上のことだけで着実にバリアフリーな社会を築くことが出来るかと言えば、「私はそれだけでは出来ない」と答えて参りました。

それは、多くの国民の皆さんの理解と協力により、共にバリアフリーな社会を築くことが何にも増して重要であるという認識が大切であります。従って、私は「人々の心のバリアフリー!」を繰り返して参りました。そして、文化国家日本は交通弱者といわれる人々に対し『心のバリアフリー』を標榜しながら、バリアフリーな社会の実現のために努力することが大切であります。

私はこの際、国民の皆さんや、地方行政を担当される方々、地方議会の皆さん、全国の交通事業者の皆さんに「自らも参加する交通バリアフリーの実現」についてお考えを頂き、さらにご高見を賜ることが出来れば幸いと考えました。

ご一読頂ければ望外のことであります。

なお、質問にお立ち頂いた各党各会派の衆・参の国会議員の皆さんが、質問および答弁の抜粋を掲載させて頂くことを快諾して頂きました。国会審議におけるご協力と共にこの際、心から謝意を表します。なお、資料作成にご協力を頂いた運輸省の金子正志君、小木曽稔君、高橋徹君、片山敏宏君にも、御礼を申し上げる次第であります。

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