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寄稿 『観光庁』設置を急ぐべし
衆議院議員 二階 俊博
三万人のための情報誌「選択」2004年12月号

 「観光」は中国の「易経」にある「国の光を観る」に由来する言葉であり、その国、その地方の歴史、伝統、文化を観察し、尊重することから始まる。国内需要二〇兆円、経済波及効果五〇兆円と観光業界の裾野は広く、その振興は地域経済の活性化を柱とする日本経済再生の可能性を大きく秘めて発展を続けている。そして何よりも国際観光は各国の相互理解と信頼を深め、世界平和と日本の安全保障に貢献できる重要な役割を担う産業である。このような観点から私は観光振興をライフワークとして取り組んできた。
 一九九二年、奥田敬和運輸大臣の熱心なご推挙により、社団法人全国旅行業協会の会長に就任させていただいた。そして直ちに各界の有識者による「観光を考える百人委員会」をつくり、会議を重ねて「観光立国のための新観光基本法の制定」、「国際観光のインバウンドとアウトバウンドの不均衡の改善」、「観光資源の再発見と個性的な観光地づくり」など二十一世紀の観光に対する十二の提言を行った。
 二〇〇〇年には運輸大臣就任と同時に官邸での記者会見で観光立国と外国人観光客の倍増八百万人構想を発表。広域観光に取り組むため、全国に「二十一世紀の観光を考える百人委員会」を設立した。同年十二月には関係者の協力もあり観光版経団連ともいえる「日本ツーリズム産業連合会」(TIJ、船山龍二会長)を設立、業界一体で観光振興に取り組む体制を整えた。
 国際的には二〇〇〇年に五〇〇〇人、二〇〇二年に一万人規模の観光交流使節団を中国に派遣し、日中交流を深めた。特に何光イ国家旅游局長(=観光大臣)は中国から日本への観光客増加のため、六代にわたる運輸大臣に観光ビザを認めるよう熱心に働きかけておられ、私が大臣のときにようやく団体観光ビザが発給されることになった。自公保連立政権では山ア拓(自民)、冬柴鐵三(公明)と私(保守)の三党幹事長と何国家旅游局長が協力し、その対象地域は今年九月十五日までに四市五省に拡大、対象人口三・七億人と大きな市場に成長した。しかし、このような地域制限があるのは国際的に日本だけである。今後は中国全土を対象とする方向で努力したい。
 また韓国とは運輸大臣当時に朴智元文化観光部長官らと会談を重ね、「平和産業である観光の発展のため、両国が未来志向で取り組む」と約束するなど国際観光の振興に努めてきた。
 現在は自民党観光特別委員会委員長として中国の団体観光ビザ発給対象地域拡大や国際修学旅行の推進に取り組んでいる。所属する政策グループ「新しい波」ではシンクタンク「日本観光戦略研究所」を設立、各界の第一人者を招いた百人規模の定期的な勉強会などを重ねている。


 二〇〇二年二月、小泉総理が歴代総理として初めて施政方針演説において観光立国宣言を行ったのは実に画期的なことであった。その後はビジット・ジャパン・キャンペーンの展開、国土交通大臣の観光立国担当大臣としての任命、国土交通省局長級の総合観光政策審議官の新設など、観光立国に向けた歩みが積極的に展開されるに至った。
 諸外国との比較や、さらなる観光立国への道を考えた場合、推進体制の増強は必要不可欠であり、「観光省の新設」を要望する声は強い。しかし行政機能の肥大化が指摘され、効率化、スリム化が求められている今日、新たな省の設置には慎重であるべきことも事実である。独立した行政機関として総合的な観光行政を行う次善の策として、私はまず国土交通省の外局として「観光庁」を設置し、いずれ関係省庁の関連部局を取り込む形で「観光省」を設置するのが望ましいと考える。
 東西冷戦の終結、航空網の発達とIT技術の進展は国際的な人、モノ、情報の流れを加速させ、現代はまさに大交流時代に突入している。観光は大交流時代における重要な産業として認識され、世界観光機関(WTO)でも二〇〇〇年に一億五九〇〇万人であった外国旅行者数が二〇一〇年まで毎年四・二%の規模で拡大し、二〇二〇年には一六億人に達すると見込まれるなど、市場拡大が予測されている。
 また観光は地域活性化の柱として注目され、公共事業や農業に頼ってきた地域経済を再生し、社会活力を取り戻す産業として期待されている。経済社会的な面に限らずとも、観光推進は国民生活の安定向上、国際親善の増進、地域文化の深化に寄与する、国民にとってなくてはならないものといえる。


 政府の施策としては、外国人観光旅客の来訪促進、観光旅行の安全確保、観光資源保護、育成及び開発、観光に関する施設の整備が挙げられる。これらを観光立国担当大臣の下に推進し、二〇〇一年の省庁再編以降、国土交通省が観光政策の総合調整機能を担っている。
 国土交通省では局長級の総合観光政策審議官のほか、観光企画課、国際観光推進課、観光地域振興課、旅行振興課、参事官(観光担当)、事業総括調整官室が観光行政を担当し、さらに官房長官主宰の「観光立国推進戦略会議」(牛尾治朗座長)で観光立国の戦略を議論し、内閣総理大臣をトップとした「観光立国関係閣僚会議」で省庁横断的な施策の集約を図っている。
 政府の担当部局は運輸省観光局、運輸省国際運輸・観光局、運輸省運輸政策局観光部、国土交通省総合政策局観光部と変遷し現在に至る。今後は部門の機能強化、関係する行政分野への積極的な関与など、観光立国に向けて推進体制を増強する必要がある。
 組織・予算の増強とともに手薄な分野にテコ入れすべきであり、具体的には中央・地方機関の人員増強、観光関連税(免税店振興税、ホテル税、カジノ税など)を財源とした特別会計の創設や、それを含めた予算の増強、観光関連産業(宿泊施設、旅行業者、土産物店、飲食店、娯楽施設など)の振興、国際案件(WTO、APEC観光作業部会、OECD観光委員会、国際協力)への対応強化、地方自治体やNPOとの連携強化などが考えられる。
 同時に国土交通省観光部門の分野を超えた総合的な行政を推進する必要もある。移動利便性の向上(道路、鉄道、航空、海運、入国管理、査証)、人材育成(初等中等教育、高等教育、社会人の再教育、地域の人材育成)、日本文化振興(文化財、世界遺産、無形文化財、コンテンツ産業)、観光資源の保護(農村景観、都市景観、海岸、名所・旧跡、自然)、国民の休暇対策(年次有給休暇や学校休業日の分散化)、さまざまな形態の観光(エコツーリズム、グリーンツーリズム)、観光ブランド保護、土産物振興などの施策を一体的に行うべきだ。
 観光行政の体制強化は日本の観光立国に向けた積極的な取り組み姿勢を海外に示すとともに、国内に対しても政府の意気込みを示す上で非常に有効であり、『観光庁長官』や『観光大臣』はそのシンボル的な存在となる。世界的にもフランス、イタリア、オーストラリア、韓国など観光省(観光大臣)の設置国は多く、日本にも相応の対応が必要だ。
 最終的には『観光省』設置が望ましいが、現実的には既存組織を増強させる形での観光庁、内閣総理大臣を本部長とする観光立国推進戦略本部の設置から観光省を目指すべきである。とりわけ現在の機能を強化し、次官級の長官を設ける『観光庁』の設置については迅速に取り組まねばならない課題と認識している。関係者が実現に向けて協力していけるよう努力を重ねていきたい。

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