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寄稿 蓮は平和の象徴なり
衆議院議員 二 階 俊 博
「文藝春秋」二〇〇五年二月特別号


 蓮は古くから特別な花として愛されてきた。もっとも古い例では、インドで五千年も前のものと思われる蓮の女神像が出土している。蓮はその後、仏教と深く結びついたことでアジアの諸文明に共通の影響を与えてきた。どこの国でも仏さまは蓮の台に座っておられる。
 日本でもすでに平安時代から蓮についての記述があり、いまでも皇居の道灌堀には蓮が植えられている。昭和天皇はそれをご覧になって、「夏たけて堀のはちすの花みつつほとけの教え憶う朝かな」とお詠みになった。
 仏の力ではあるまいが、この花はわれわれの想像を超えた生命力を持っている。古代の遺跡から発掘された化石のような蓮の実が、いま植えても発芽し、開花するというのだからまったく驚く。この、太古の姿をそのまま現在に見せている蓮を古代蓮という。
 世界でもっとも古い古代蓮は、昭和二十六年、大賀一郎博士によって千葉県で発見されている。現在、東大の検見川グラウンドがある場所から縄文時代の丸木舟が発見されたとき、一緒に蓮の実も見つかった。ラジオカーボンテストによると丸木舟は三千年前のもの、蓮の実も二千年以上昔のものという。
 大賀博士は戦前の一時期、満鉄の教育研究所で教鞭をとっていたが、そのとき大連・普蘭店の遺跡で発見された一千年前の化石のようになっていた蓮の実を三粒手に入れ、見事開花に成功した。これが、大賀博士が蓮の研究に邁進するきっかけとなる。
 そして検見川で発見された蓮の実も、苦難の末、一年後に開花に成功し、二千年の眠りから覚めた蓮は澄んだ紅色の美しい花を咲かせた。このニュースは『ライフ』誌に大きく載り、古代蓮は「大賀蓮」と命名された。
 一高で内村鑑三の薫陶を受けたクリスチャンである大賀博士は、「蓮は平和の象徴なり」を信条とし、とくに蓮研究のきっかけを与えてくれた中国との友好には心を砕いていた。大賀蓮が平和の使者として中国の大地に花開く日を心待ちにしていたのだ。しかし、思い半ばにして昭和四十年に亡くなった。
 大賀博士の遺志を継がれたのが愛弟子の阪本祐二先生で、和歌山県の高校で生物を教えるかたわら研究を重ねた。
 わたしは阪本先生に生物を教わった一人である。その縁で大賀博士、阪本先生と受け継がれた蓮による善隣友好の手助けをしたいと、県会議員時代からさまざまな取り組みをしてきた。
 しかし、阪本先生の生前、中国に大賀蓮を咲かせることはできず、やっと阪本先生の奥様とともに杭州西湖に大賀蓮を植えることができたのは一九八一年だった。しかし、文化大革命の余燼がまだ残る当時、この蓮の池は紅衛兵によって無残に破壊されたらしい。
 ところが、二十一世紀に入って状況は好転した。中国海南島にあるボアオアジアフォーラム常設会議場の副理事長、蒋暁松氏に会う機会があったので、大賀蓮の話をしたところ、開花にまつわる日中をまたいだエピソードにいたく感激し、「ボアオ東方文化苑・蓮花館」の建設を提案してくれたのだ。大賀博士、阪本先生の願いがやっとかなう。一昨年七月、起工式もおこなわれた。
 蒋副理事長の「蓮は東洋の花、アジアの花」という言葉に意を強くして、二〇〇四年に入ってからは中国以外のアジアの国々にもアプローチをはじめている。
 航空関係の行事で訪れたハノイでは、街の店頭に蓮のお茶やお菓子が売られ、国会議事堂の建設予定地から発見された瓦にも蓮の模様がついていた。ベトナム航空のシンボルマークも蓮の花だ。そこで駐ベトナム大使がベトナム政府の閣僚に大賀蓮のことを紹介したところ、直ちに六人の閣僚からくわしく知りたいという反応があった。
 国花が蓮である本家インドでも、旧知の石川好氏がパジパイ前首相に会ってこの話をしたところ、さっそく苗がほしいと申し出があった。パジパイ氏率いるインド人民党のシンボルマークも蓮で、党本部前の池に植えたいのだという。わたしは、インドと紛争が絶えないパキスタンのムシャラフ大統領と面識があるので、同じ蓮をパキスタンにも送ろうかと考えている。蓮が平和の使者としてアジア諸国へ広がっていく――蓮に平和の願いを込めた大賀先生の遺志が着実に伝わっていくこの道筋を、わたしは「絹の道」になぞらえて「蓮の道」と呼んでいる。
 ひとつ気がかりなのがミャンマーだ。わたしは昨年、日本ミャンマー議連会長の古賀誠氏とともに現地を訪れた。古賀氏は日本遺族会会長でもあり、一緒にミャンマーにある日本人墓地に大賀蓮を植える計画を進めてきた。幸い、計画は順調に進み、池までできていたのだが、突如政変が起き、計画を支援してくれていた国際協調派のキン・ニュン首相が失脚してしまったのだ。計画は宙に浮いている。ミャンマーは敬虔な仏教国のはず。「蓮は平和の象徴なり」という大賀博士の願いが、必らず軍事政権にも届くものと信じている。

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